大判例

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東京高等裁判所 昭和46年(行コ)43号 判決

茨城県下館市甲六六二番の一

控訴人

坂入博太郎

右訴訟代理人弁護士

佐久間渡

大木市郎治

東京都港区六本木六丁目五番二〇号

被控訴人

麻布税務署長

日向堅二

右指定代理人

増山宏

柳沢正則

古川三良

桑名道男

清水敬至

大石敏夫

右当事者間の昭和四六年(行コ)第四三号行政処分取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が原判決添付の物件目録記載の土地および建物につき昭和四三年六月一二日付をもつてした差押処分を取り消す。被控訴人が控訴人の昭和三八年分所得税につき昭和四一年二月二八日付をもつてした更正処分は無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否は、次に付加するほかは、原判決の事実欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴代理人は、

本件課税処分(更正処分)においては、譲渡所得の計算をするにつき差し引くべき必要経費の認定額が過少にすぎ、この点において重大かつ明白な瑕疵があるから、更正処分は無効であり、これが有効であることを前提とする差押処分も取り消されるべきである。すなわち、

一、渋谷区美竹町の宅地および同宅地上の建物(以下これを渋谷の土地建物と略称する。)の譲渡所得の計算については、その必要経費として、購入代金五〇〇万円、仲介手数料一五万円、土地売買予約仮登記手数料八〇〇円、土地の所有権移転登記手数料一八、六〇〇円、建物所有権移転登記手数料一三、九〇〇円、売買契約書印紙代一、〇〇〇円、不動産取得税六九、〇〇〇円合計五、二五三、三〇〇円を差し引き計算すべきである。

二、宇都宮市越戸の山林(以下宇都宮の山林と略称す。)は、控訴人が松原忠と共同で購入し、宅地造成費を半額づつ負担してこれを宅地に造成したうえ譲渡したので、この分の控訴人の譲渡所得の計算については、その必要経費として、購入代金および造成費の各二分の一にあたる二、七九八、三〇〇円と六三七、五三二円の合計三、四三五、八三二円を差し引き計算すべきである。

三、被控訴人主張の後記一の事実関係は認める。従来控訴人が主張していた日時を被控訴人主張の該当日時のとおり訂正する。

と陳述し、

被控訴代理人は、

一、控訴人の昭和三八年分所得に対する課税状況等は次のとおりである。

(一)  控訴人の昭和三八年分所得に対する課税状況

〈省略〉

(二)  右の申告ならびに更正・決定処分によつて納付すべき税額

〈省略〉

(三)  差押書(甲第一号証)の滞納国税等欄記載の本税七一四、六八〇円は、本件更正通知書の公示後である昭和四一年五月一〇日控訴人から納付のあつた金三七、六五〇円を充当した残額である。

二、渋谷の土地建物の必要経費が五、二五三、三〇〇円であることは否認する。その必要経費は二〇〇万円である。すなわち、控訴人と訴外木島茂昭は、昭和三四年秋訴外中桐良子からその所有の渋谷区美竹町二八番四所在宅地八七坪五合九勺と同宅地上の建物を譲り受けたが、右宅地は同所同番四宅地四三坪八合と同所同番一〇宅地四三坪七合九勺に分筆され、控訴人は同所同番四の宅地と同宅地上の建物を二〇〇万円で譲り受け、訴外木島茂昭は同所同番一〇の宅地と同宅地上の建物を二一〇万円で譲り受けたものである。そして、控訴人は右渋谷の土地建物を他に譲渡するにつき譲渡費用を必要としたことは認められないので、その必要経費は二〇〇万円である。

三、宇都宮の山林の必要経費が三、四三五、八三二円であることは否認する。その必要経費は二、七九八、三〇〇円である。すなわち、控訴人は昭和三七年一〇月頃訴外松原忠と共同で宇都宮市平出町越戸前の山林五反五畝二九歩を五、五九六、六〇〇円で取得し、これを宅地に地目変更したうえ分筆し、訴外松尾健三らに分譲したが、右山林の取得費五、五九六、六〇〇円のうち控訴人はその二分の一の二、七九八、三〇〇円を負担した。そして、右分譲による利益の配分方法は、訴外松原忠において、収入金額および収入金額に対応する必要経費のうち取得費を除く一切の費用の計算をして、収入金額から取得費を除いた必要経費を差し引いて利益を算出し、その利益の二分の一を分配金として控訴人に支払つているから、宇都宮の山林の控訴人の必要経費としては、前記二、七九八、三〇〇円以外のものはありえない。

以上のとおりであつて、被控訴人のなした課税処分における必要経費の認定は適法であり、その認定額が過少であるから、その点において重大かつ明白な瑕疵があるとの控訴人の主張は理由がない。

と陳述し、

当審における新たな証拠として、控訴代理人は、甲第一〇号証ないし第一五号証を提出し、当審の証人浜田正止、花形実の各証言、控訴本人尋問の結果(第一、二回)を援用し、後記乙号各証の成立(第一五号証の二ないし八は原本の存在をも認める)を認めると述べ、被控訴代理人は、乙第一五号証の一ないし八(但し二ないし八はいずれも写し)を提出し、右甲号各証の成立は不知と述べた。

理由

一、 控訴人の昭和三八年分所得につき、被控訴人が前記事実欄被控訴人の主張の部一(一)ないし(三)に主張のとおり、確定申告、修正申告、賦課決定、更正決定があり、その申告、更正・決定処分による納付すべき税額等が右に主張のとおりであること、および差押書(甲第一号証)の滞納国税等欄記載の本税が右に主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二、 当裁判所は本件第二次課税処分の通知の送達を適法であると判断するが、その理由の詳細は、次に付加するほかは、原判決の理由欄一(一)(原判決一四枚目裏一行目ないし一七枚目裏六行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。

但し、原判決一七枚目表七ないし八行目の「原告本人尋問の結果」の次に「(第一、二審、但し第二審は第一回)」を加える。

前記のとおり(本判決の引用する原判決の認定)被控訴人は、国税通則法一四条一項を適用して、本件第二次課税処分の通知を控訴人に対して送達するにつき、昭和四一年五月九日送達のため公示したのであるから、同条三項により同月一六日の経過により右通知の書類が控訴人に送達されたものとみなされる。従つて、控訴人は右課税処分に不服があれば、おそくとも、昭和四一年五月一七日から一か月以内に不服申立をすべきであるところ(昭和四五年法律第八〇号による改正前の国税通則法七六条一項)、控訴人がこの期間内に不服申立をしなかつたことは明らかであるから、同課税処分は確定したものといわなければならない。

控訴人は、右課税処分(更正処分)には重大かつ明白な瑕疵があるから、同処分は無効であると主張する。

右のように、課税処分が確定し、そのため通常の不服申立方法によつてはその取消変更を求めることができない場合でも、その処分に重大かつ明白な瑕疵があるときは、控訴人がこの事実を主張・立証してその処分の無効であることの確認を求めることができるものであるところ、この点に関し、控訴人は右課税処分においては、譲渡所得の計算をするにつき差し引くべき必要経費の認定額が過少にすぎるので、重大かつ明白な瑕疵があり、課税処分は無効であると主張するけれども、仮に控訴人主張のとおりの必要経費に関する認定の誤りがあつたとしても、この程度の瑕疵は当該課税処分の無効を招来するほどの重大かつ明白な瑕疵と解することはできないから、この点に関する控訴人の主張は採用できない。のみならず、控訴人のいう渋谷の土地建物が渋谷区美竹町二八番四宅地四三坪八合および同宅地上の建物であり、前所有者中桐良子は、同区美竹町二八番四所在宅地八七坪五合九勺を所有していたが、これを美竹町二八番四宅地四三坪八合と美竹町二八番一〇宅地四三坪七合九勺に分筆したうえ、前者をその地上の建物とともに控訴人に二〇〇万円で譲渡し、後者をその地上の建物とともに訴外木島茂昭に二一〇万円で譲渡したものであることは、成立に争いない乙第一五号証の一、原本の存在および成立に争いない乙第一五号の二、三によつて認めることができる。右認定に反する当審の控訴本人尋問の結果(第二回)は措信しない。また、甲第一〇ないし第一四号証は、いずれも真正に成立したことを認めることができないか、仮に右本人尋問の結果によつて真正に成立したことを認めることができるとしても、その記載内容は弁論の全趣旨に照らして措信することができない。渋谷の土地建物につき控訴人が右取得費二〇〇万円以外にその譲渡所得の計算上必要な経費を支出したことを認めるに足りる証拠はない。

また、宇都宮の山林は控訴人が訴外松原忠と共同で取得し、これを宅地に造成して分譲したことは当事者間に争いがなく、被控訴人は右山林の取得費五、五九六、六〇〇円のうち控訴人はその二分の一の二、七九八、三〇〇円を負担し、松原忠において、収入金額および収入金額に対応する必要経費のうち取得費を除く一切の費用の計算をして、右収入金額から取得費を除いた必要経費を差し引いて利益を算出し、右利益の二分の一を分配金として控訴人に支払つたのであるから、宇都宮の山林の譲渡所得の計算上控訴人の必要経費となるべきものは右二、七九八、三〇〇円以外にはないと主張するのに対し、控訴人は必要経費として造成費の半額六三七、五三二円を計上しないことを前記無効事由として主張するが、訴外松原忠から控訴人に支払われた譲渡金額(分配金)は、造成費を差し引いた残額でないこと(つまり被控訴人が宇都宮の山林の譲渡所得としている金額から右造成費を必要経費として差し引くべきこと)については控訴人が立証責任を負うものであるところ、当審の控訴本人尋問の結果(第二回)によつて真正に成立したと認められる甲第一五号証によつてはいまだこの事実を認めるに足りず、この点に関する当審の控訴本人尋問の結果(第二回)は弁論の全趣旨に照らし措信できない。その他には右事実を認めるに足りる証拠はない。

四、 そうすれば、右課税処分(更正処分)に重大かつ明白な瑕疵があることを認めることはできないから、更正処分を無効であるということのできないことは明らかである。従つてまた、同処分の無効であることを前提として被控訴人が原判決添付の物件目録記載の土地および建物につき昭和四三年六月一二日をもつてした差押処分が違法であるとしてこれが取消を求める控訴人の本訴請求も理由がないものといわなければならない。

よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は結局において正当であり、控訴人の控訴は理由がないから、これを棄却すべきである。そこで、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九八条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 満田文彦 裁判官 真船孝允 裁判官 鈴木重信)

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